UZR(アルティメット・ゾーン・レーティング)は現在、メジャーリーグでも活用されている野手の守備を評価するための指標です。
日本では”エラー数“、つまり守備率が重要視されていたり、ゴールデングラブ賞にいたっては「投票記者の印象」と言わざるを得ないのが現状です。
最近は各球団も細かいデータを見ているようですが、監督の言動などを見ているとまだまだ浸透していませんね。
これから一気に広まるであろうUZRについて、この記事では実際の数字も見ながら紹介していきたいと思います。
目次
野球におけるUZRの概要
守備率以外で古くから守備力を評価する指標に「レンジファクター」というものがあります。
レンジファクターは野手の守備範囲を評価する指標で、「一人の野手が9イニングあたりで取ったアウトの数」が数値化されます。
詳しくはこちらを御覧ください
レンジファクターは1977年に生まれた指標で、欠点も少なくありません。
- 奪三振数が多いチームの野手は不利
- たまたま打球が飛んでこないなど、運の要素が多分に含まれる
「たまたま打球が飛んでこなかった」なんて言い出したらキリがないと思いますが、より野手の守備力を正確に評価するために生まれたのがUZRです。
UZR(アルティメット・ゾーン・レーティング)
UZRの算出においては、まずグラウンドを多数の「ゾーン」に区分し、各ゾーンについて発生した打球の種類(バント・ゴロ・外野へのライナー・外野へのフライ)や速度(遅い・中間・速い)を記録する。
そしてそれぞれのゾーンにおいて生じた特定の種類の打球についてリーグ全体でどれだけのアウトが記録されたかを算出する。
このデータを基に、個別の野手のプレーを評価し、各種の補正を合わせて「リーグにおける同じ守備位置の平均的な選手が守る場合に比べて、守備でどれだけの失点を防いだか」を計算する。
ちょっと分かりづらいので簡単にまとめてみますね。
- グラウンドを各ポジション定位置ではなく各ゾーンに細分化し、打球速度を含む打撃結果を記録しデータ化する
- このデータを元に、野手のプレーを人力で評価する
- 数値は+と-で評価され、「平均(0)と比較してどれだけ失点を防いだか」が数値となる
UZR知名度が上がってこないのは、この算出方法の難しさにあります。
我々一般人はまず打球速度などのデータが手に入らないので、算出しようがないのです。
UZRは誰が、どうやって算出している?
では、UZRはどのように数値化されているのでしょうか?
メジャーリーグなどではデータを取り扱う機構や各球団が独自に測定して算出していますが、日本では2009年からデータスタジアム社が算出を始めたと言われています。
日本のプロ野球だと北海道日本ハムファイターズは早くからUZRを見ていると言われていますね。
膨大なデータと人力で野手のプレーを評価するので、個人ではとても測定できません。
現在、日本プロ野球のUZRを調べる場合は合同会社DELTAが一部無料で公開をしていますので、これを見るしかないという現状です。
UZRのプラス、マイナス評価はどうやって決まる?
例として、平均的には15%の割合で中堅手がアウトにし、10%の割合で左翼手がアウトにし、残りの75%はヒットになるような外野へのライナーを考える。この打球について、仮に中堅手が捕球しアウトを成立させたなら、通常は25%しかないアウトの見込みを100%にしたものとして中堅手は100%と25%の差分である0.75「プレー」の評価を得る。
さらにUZRは守備の評価を得点の単位により行うため、プレー数の評価に得点価値を掛け合わせる。一般的な外野への安打はチームの失点を約0.56点増やす。また、アウトは失点を約0.27点減らす。すなわち、ヒットになるはずだった打球をアウトにする働きは守備側チームの失点の見込みを0.83点減らすことになる。プレー数0.75に得点価値0.83を乗じた0.6255点が、当該中堅手がそのライナーをアウトにしたことによって「防いだ失点」となる。
このように、UZRのプラス評価は単純です。
「難しいプレーを成功させ、アウトを取ればプラス」となります。
「エラーをしてアウトを取れなかった」「データから90%アウトになるはずの打球をアウトにできなかった」などのプレーを行ってしまうとマイナスです。
UZRの複雑なところとして、守備範囲だけの評価ではないというところがあります。
合同会社DELTAのデータでは
- RNG|守備範囲の広さ
- ERR|エラーの数
- DPR|内野手の併殺完成による貢献度
- AMR|外野手の補殺、進塁阻止による貢献度
これら4つの項目を合算して「UZR」という総合的な守備指標になっています。
参考までにUZRが外野手全体で見てワースト2位(ワースト1位は阪神・糸井選手)だった2017年のホークス柳田選手の守備指標を見てみましょう。
2017年 | イニング | AMR | RNG | ERR | UZR |
柳田 悠岐 | 1091 1/3 | +0.6 | -12.0 | +0.2 | -11.3 |
この数値は見る限り、柳田の強肩(AMR)は健在ですし、エラーも平均より少ない(ERR)ことが分かります。
しかし、その足を引っ張るのが守備範囲(RNG)でした。-12と、大きなマイナスを出してしまっています。
これは怪我の影響もあったと思われます。全力疾走が難しい状態で試合に出ていましたから、純粋に柳田選手の守備が下手だったとは思いませんが…。
もともと「身体能力だけで守備をやってる」と言われることもある選手ですので、今後の成長に期待したいですね。
UZRの信頼度、弱点は?
UZRは守備率と比較すれば非常に信頼できる指標となっていますが、以下のように注意するべき点はあります
- 打球速度などの膨大なデータが必要となるため、1年単位で見たときにバラつきが激しい
- 最終的な評価は個人の判定のため、100%平等ではない
- 投手、捕手は打球処理が他ポジションと比較して極端に少ないので評価できない
- 相対的な評価のため、ひどく数字の悪い選手が居ると平均的な選手の数字も上がってしまう
とくに「相対評価」というのがポイントで、例えばエラーを10個してしまっても平均が11個ならプラス評価になります。
つまり「◯◯選手はすごかった。◯◯年にUZRを+50も記録したから歴代最高の守備だ」という話はナンセンスです。
その年、他に大きなマイナスを記録した選手のおかげで極端に上がった可能性もあるのです。
実際にUZRを見てみよう。2017年ショートの数値で評価してみる
2017年シーズンを例に合同会社DELTAのデータでUZRを見てみましょう。
まずは、分かりやすい例としてパリーグのショートを見てみます。
2017年、ゴールデングラブは福岡ソフトバンクホークスの今宮健太選手でした。まず、守備率を見てみます。
選手(球団) | 守備率 | 試合数 | 刺殺 | 捕殺 | エラー数 |
今宮 健太(ソ) | .988 | 140 | 183 | 377 | 7 |
安達 了一(オ) | .986 | 105 | 164 | 316 | 7 |
源田 壮亮(西) | .971 | 143 | 228 | 481 | 21 |
このように、守備率だけ見れば今宮選手が1位で、2位のオリックス・安達選手は試合数も少ないので妥当な評価のように思えます。
しかし、UZRを見てみると少し違った印象になります。
選手(球団) | UZR | イニング | RNG | ERR | DPR |
源田 壮亮(西) | +21.5 | 1269 2/3 | +20.4 | -2.3 | +3.4 |
安達 了一(オ) | +11.6 | 830 2/3 | +7.5 | +3.7 | +0.4 |
今宮 健太(ソ) | +5.2 | 1223 1/3 | +1.2 | +4.9 | -0.9 |
このように、西武のルーキー源田選手が圧倒的な差をつけて1位なのです。
また、オリックスの安達選手も少ない試合数で素晴らしい数値を記録しています。
今宮選手も、平均以上なのは間違いありません。
この数値から見れば「源田選手はエラーが多いものの、圧倒的な守備範囲で最も球団の失点を抑えたショート」という評価になりますので、メジャーなら間違いなくタイトルを受賞したのは源田選手だったでしょう。
今宮選手は併殺貢献度(DPR)がマイナスになっているので、セカンドの選手によっては少し上積みできたかもしれませんね。
他の例で言えば、ラミレス監督が「守備の要」として絶対的な信頼を置く横浜DeNAのショート・倉本選手ですが、ここ3年のUZRは以下の通りです。
年度 | UZR | 順位 |
2015年 | -5.0 | 7位(10人中) |
2016年 | -12.7 | 11位(12人中) |
2017年 | -17.0 | 10位(10人中) |
このように、はっきり言えば各球団ショートのレギュラーで比較すれば守備力に欠けていると言わざるを得ません。
15年、16年は衰えた阪神・鳥谷選手がひどい数値を出して倉本選手より下にいるので、バリバリ全盛期の倉本選手がこの数値ではいけません。
細かい指標を見るとエラーは少ないのですが、守備範囲指標が絶望的です。
年度 | REG(範囲) | DPR(併殺) | EER(エラー) |
2015年 | -8.1 | +1.8 | +1.3 |
2016年 | -11.3 | -7.3 | +5.9 |
2017年 | -18.0 | +0.6 | +0.4 |
エラー評価がプラスになっているのも「そもそも追いつかないからエラーが記録されない」という説明がつきます。
+5.9を記録した2016年は自分がさばける打球を堅実にさばいていたのも事実でしょうし、そこが2016年より指揮を執るラミレス監督の信頼に繋がったと思われます。
しかしラミレス監督がいくら評価しようとも、データを見ているフロントが阪神タイガースから守備の名手・大和選手を獲得したのは当然と言えます。
まとめ|UZRは絶対的な指標ではないが本当の守備力が数値で分かる
このように、UZRはエラーの数や守備率・レンジファクターなどでは測りきれないところまでカバーできるのが魅力です。
ただ、最終的に人の手が加わっているのでまだ100%平等ではないのが気になりますね。
近い将来、UZRはコンピューターが判定できるようになると言われています(メジャーではもう、なっているとの噂も。)
そうなれば守備評価では最もポピュラーな指標になるのではないでしょうか。
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